「誰アク」プロジェクトいろいろ

(2022年4月~)

「誰アク」プロジェクトいろいろは、
大学におけるアクセシビリティ保障の質向上と対象拡大(インクルーシヴデザイン化)を
目指しています。具体的には、

(1)大学において、構成員が「等しく」アクセスするとはどういうことか?
(2)大学は、「何に対する」アクセシビリティを保障すればよいのか?
(3)大学は、「誰の」アクセシビリティを保障すればよいのか?
について検討、実践に取り組んでいます。


【第2弾】「大学における『誰一人取り残さない』ためのアクセシビリティを考えるーすべての授業に字幕を」(2024年4月~)

動画配信システムの自動作成字幕により、今や、動画への字幕付けは、特別な技術やコストをかけることなく実現することが可能です。ただ、音声認識の精度も飛躍的に向上しているとはいえ、話し方や内容によっては、人の手による修正が必要です。
対面授業におけるリアルタイム字幕についても、音声認識アプリの利用により比較的容易に実現できますが、やはり人の手による修正が必要であり、こちらは即時性との関係で動画の修正よりは少し技術が求められます。
「すべての授業に字幕を」は、同志社バリアフリープロジェクトで掲げた目標の一つですが、あらためて、この課題に取り組みたいと思います。

2024年度の取組み

 

法学部「2024年度授業方法開発支援」による取組みです。

障害者差別解消法の施行以来、大学では、障害により「聞く」ことに困難のある学生から合理的配慮に関する申請があれば、面接授業ではPC通訳、オンデマンド授業では字幕のサポートが提供されています。
しかし、申請から学部への配慮提案、学部から科目担当者への配慮依頼を経て合理的配慮の内容が確定し、上記サポートが提供されるまでには時間を要します。

同志社大学では、2024年度から、原則として、初回授業と最終回授業をオンデマンドで配信することになっています。
学生は、初回授業の動画を面接授業開始までに視聴しなければなりません。
上記の事情を踏まえると、少なくとも、初回授業として提供される動画には、大学の事前的改善措置(障害者差別解消法5条)として、「字幕」をつけることが望ましいでしょう。 




YouTube等を自動字幕機能を用いれば、容易に「字幕」をつけることができますが、無修正で利用できるほどの精度にはなっていません。
授業の情報には、「正確さ」が求められます。
その「正確さ」を担保するには、教員の関与が不可欠ですが、動画の作成に加え、自動字幕の修正まで、すべてを教員任せにすることは、教員にとって大きな負担となり、現実的ではありません。
「すべての授業に字幕を」を実現するには、教員の心意気や熱意に頼らない仕組みが必要です。

本年度は、同志社大学で採用されている配信システムPanoptoの「自動字幕作成機能」を利用し、自動作成された字幕を学生アルバイトが修正する方式の確立を目指しています。
障がい学生支援としての字幕修正は、PC通訳に従事している学生(サポートスタッフ)等が行うのが一般的です。
しかし、「すべての授業」となると、それでは人数が足りませんし、専門分野にも偏りが生じてしまいます。
本プロジェクトでは、これまで字幕修正の経験のない学生、そして、
「1人で、自由な時間に、自分のペースで作業できる」ことから、アルバイト経験のない学生にも、ぜひ、修正作業に従事してもらいたいと思っています。

Panoptoの字幕表示

他の配信システムと同じく、字幕の表示・非表示は、視聴者が選択できますが、動画作成者が字幕をつけた場合、何も操作しなければ、字幕が表示された状態となります。

Panoptoの字幕(PCの場合)

PCで視聴した場合、字幕は、共有画面の外に表示される。字幕の分量が多い場合、共有画面が小さくなる。

Panoptoの字幕(スマートフォン、タブレットの場合)

スマートフォン、タブレットで視聴した場合は、字幕は、画面上に表示されるため、字幕の分量が多いと、資料の画面共有では、共有画面が見えなくなることがある。

字幕修正アルバイト

専門知識の有無による違いを見るため、「専門知識のある」法学部・法学研究科生と「専門知識のない」他学部・他研究科生の2枠で募集することにしました。

(春学期)
法学部・法学研究科生 3名(PC通訳等の経験あり1名、なし2名)
法学部・法学研究科生以外 6名(PC通訳等の経験あり5名、なし1名)

 字幕作成の手順

字幕作成の手順は、以下のとおりです。
字幕ファイルの振分け、統合、確認作業には、それなりの時間がかかるため、すべてを教員が担うのではなく、TAやSA、アルバイトに委ねるのが合理的かと思います。

①動画をPanoptoにアップロードし、自動作成字幕のファイルを取得する。
②30分ごとでファイルを分割し、アルバイトに送付する。
③アルバイトが、動画の時間×3倍(30分動画であれば90分)で作業する。作業日数は、動画受領から3日間。
④アルバイトから返送されたファイルを教員が確認する。
⑤動画の自動作成字幕を削除したうえで、字幕ファイルをアップロードする。 

春学期作成動画

2024年度春学期に字幕作成した動画は、授業動画4本、その他5本の計9本である。(〇は、法学部「2024年度授業方法開発支援」による取組み)

【授業動画】
(法学部科目)
民法概論「受講の手引き」「担当者自己紹介」「第1回オリエンテーション」
〇民法概論 「契約の世界を整理したら」
〇民法概論 「民法講義に備えて」
民法Ⅲb(契約)「受講の手引き」「第1回イントロダクション~契約法とは何か」
〇民法Ⅲb(契約) 確認テスト解説
民法Ⅲb(契約)第15回「金融取引その他」
民法Ⅲb(契約)期末試験解説

(全学教養教育科目)
〇複合領域科目「ダイバーシティ社会における障がい学生支援を考える ーアクセシビリティ支援の理論と実践」初回動画

 【その他】
法学部法職講座「(座談会)法学部での学びってホントに役立つの?」
〇法学部司法試験ガイダンス
〇法学部法職講座 「『法学検定』ってどんな試験?」
〇法学部法職講座 「おしえて、先輩!試験勉強ってどうしたらいい?」
〇法学部法職講座 「資格、その先へ ー公認会計士・税理士業界の最前線」

バーチャル教室の運営

oViceのバーチャル空間を利用して、オンライン上に、バーチャル教室を設置。リアルの教室に限りなく近い環境でのグループワーク、ディスカッションの実施を試みました。

アバターによる授業参加

分身ロボットOriHimeNice Cameraのアバターを利用し、「授業で呼ばれたい名前(誰アクネーム)」を使う等、「誰もが参加しやすい」環境づくりを試みました。

バリアフリーフォーラム2022に参加

京都大学バリアフリーフォーラム2022のオープンセッションに参加。
「『場』としての授業へのアクセシビリティ―『アバター(分身)』による参加の可能性を探る」というテーマで発表しました。

関連講演その他

同志社大学2022年度 FD研修会「授業へのアクセシビリティを考える~誰もが「平等」に「参加」できる授業を目指して」(CLF report(同志社大学学習支援・教育開発センターレポート)Vol.34(2023年)3頁)。
同志社大学政法会第6回政法講座「『みんなちがって みんないい』への挑戦~民間事業者における合理的配慮の義務化に関連して~」(2023年12月2日・梶山玉香)等。